最近の兵庫県の斎藤知事の公職選挙法違反疑惑を機に、フェイクニュースに関心が高まっている。これは2024年の東京都知事選挙で起こった「石丸現象」で大いに広がったのは確実。そんな、ステルス選挙応援が当たり前になるなか、こんな本が発売されたので読んでみたのだが、それがトンデモ本だった、という話。
フェイクニュース時代の科学リテラシー超入門(竹内 薫)
まず、本書をお勧めしません(僕はaudibleで聴きました)。科学的であることが重要と言いながら、科学は万能ではないと言い、反証こそ科学といいながらこの本には全く反証がない。そうした冒頭部分で嫌な予感はしていたが、中盤から炸裂する。フェイクニュースの事例としてこの本が取り上げたのは次のような言論に対してだ。
これがフェイク情報?
- 脱原発意識、放射能への不安
- 処理水への不安
- 再エネ
- コロナワクチンへの不安
- 子宮頸がんワクチン副作用への不安
- 沖縄基地推進反対の声
これらは、日常の報道を目にして自然に湧き起こる生活者の疑問や不安だが、本書はこういった言論を、十分な根拠や反証なく「科学的でない」と批判し、これらの話題をマスコミが過剰に取り上げることこそフェイクニュースである、といった印象で綴られいる。いわゆる「火消し」だ。竹内 薫といえば、テレビでたびたび登場し、落ち着いた雰囲気で好印象の東大理工学部卒・理学博士の科学系作家だが、政治に関わる話題には御用言論人になり市民を見下ろす姿勢につく。
具体例
反証しない本、と感想を綴ったからには僕も反証として引用し批判することにする。
トリチウムは水素の一種なんですね。つまり、トリチウムが含まれる水は普通の水と同じ性質を持っています。
竹内薫・著「フェイクニュース時代の科学リテラシー超入門」第2章 – 9節「原発の処理水は怖がりすぎなくていい」より引用
さらに、「トリチウム以外の放射性物質は安全基準値まで除去されている」って言ってて驚き。その「安全基準」は元々の世界的基準を勝手に数値変更し、日本が独自に定めた「俺的にはOK」という基準。年間被曝許容数値も世界の1/10にまで改変したことは報道で明らかになっています。
トリチウムを海洋放出すれば希釈されます。
竹内薫・著「フェイクニュース時代の科学リテラシー超入門」第2章 – 10節「科学を学べばどこまでが「科学」の話か判断できる」より引用
薄くなるから大丈夫。というニュアンスだが、放出し続ければどんどん濃くなるし、実際、2年以上経つ今でも放出し続けていることに触れていない。
自然志向は一種の贅沢です。
竹内薫・著「フェイクニュース時代の科学リテラシー超入門」第2章 – 12節「自然に作られたものが良いと思ってしまうワケ」より引用
遺伝子組み換え食品などのゲノムビジネスへの不安を打ち消す話をした文末に残した一言がこれ。ゲノムへの不安視は贅沢であるから、遺伝子組みかえでも農薬でも心配せず消費しましょう、って。だいいち、遺伝子組み換えコーンはアメリカ国内では牛豚などの家畜の餌として使用する等の制限が法律で定められており、日本では規制もなく輸入し人間用に加工されている。つまり、アメリカ人には禁止されてるものを日本人には食べさせている。竹内薫は、自然志向が日本より強いアメリカNYの生活もある方なのに。この本では、こういった非科学的な「感想」が、だらだらと続くんです。
多すぎるので箇条書きに
いちいち指摘してたらキリがないので、箇条書きにしますと次の通り。ほんと市民を馬鹿にしてる。(引用文は要約です)
- 人体にもトリチウム水がある(核推進論者は必ずラジウムなど自然発生の放射線と同一視する傾向)
- 外国は海洋放出を外交カードに利用している
- 福島の甲状腺がんが増加しているのは、診断が増えたから
- 原発の地震災害は残念だが改良を加えるのが科学(なら前章の批判先だった再エネも改良できるのでは?)
- デモは公務執行妨害で犯罪だ(天安門やカラー革命、マイダン革命もそう言うの?)
- テレビのコメンテーターで一部専門家が陰謀論を加速させている(そういう側面もあるが、二者以上の立場のコメントがないと論点が明確化しないし、専門家排除が良いとする印象を広げ、両論併記が害悪であるとのニュアンスになっているのに違和感)
まるで原子力災害がなかったのような
福島原子力発電所の爆発による放射能汚染についてテレビで報じられることは全くなくなった。でも、10年以上経った今でもまだ収束しておらず、まるで無かったかのように、収束しているかのように、「あれは残念な事故だった」と書いている本書はとてもひどい内容だ。その収束にかかる費用、貯水面積増加、放水費用、ロボットによる炉心探索、損害への補償で莫大な費用がかかっており、そのため国民の電気代は(ウクライナ戦争の影響もあり)前例のない上がり方をしている。しかも電力会社は歴代最高の黒字。
御用言論
これに似た本に谷本真由美の「世界のニュースを日本人は何も知らない」がある。共通点は、海外居住経験のある国際的な著者が、日本人の日常の平凡な感覚を「神経質」だと嗜め、見下す内容で、両方とも強い者、権力者、お金持ち、を必ず擁護する。いわゆる御用言論、御用本のたぐいだろう。とにかくこの本は裏付けなしに感想だけが綴られていく。
おすすめフェイク解説本
フェイクニュースに関しては、こちら、フリージャーナリスト・烏賀陽弘道の「フェイクニュースの見分け方」をお勧めします。上に挙げた本の半値で格安なのに、裏付け豊富で科学的です。