Netflix映画「バードボックス」感想文、世紀末版「青い鳥」※ネタバレ有

バード・ボックス

サンドラブロック主演、ジョンマルコビッチ共演の世紀末映画「バード・ボックス」が予告編が面白そうだったので、観てみた。世界の終わりとか、世界を救うとか、SF映画定番の世紀末映画というのは好きではないが、サンドラブロック好きだし、原作がベストセラー小説だったということもあり、見ることにした。

映画のあらすじ

主人公の街に突如訪れる「世界の終わり」と呼ばれる現象は、人々が突然自殺するという衝撃的な人口減少。その理由として映画では、「北朝鮮・リビアの生物兵器」という、さもありだが根拠のない噂以外は手がかりなし。ニュース映像では世界中に広まっているらしい。そのモンスターを見なければ死なないことから、生き残るため視界を遮り家にこもるように生きてく生存者たち。その1人、サンドラブロック扮し、世間の摩擦に疲れ閉じこもるシングルマザーの画家マロリーが、生き残るために我が子を抱え視界ゼロで川を下っていくサバイバルミステリー。といった内容。

Netflix公式サイト

こちらでバード・ボックスを鑑賞できます。

映画の特徴

この映画は世紀末映画にありがちなド派手なビル破壊シーン、天変地異、戦争、キノコ雲などの特撮シーンはない。世紀末描写は冒頭20分程度で、残りは生き延びた人々の生活や葛藤を描いていて、アクション期待の人には向かないので、そこに期待しているSFファンは注意。「バードボックス」はサバイバルシーンを通して現代の病巣を文芸的に描こうとする「文芸サバイバル」と言える映画に仕上がっていて、派手なラストシーンを期待すると顎が外れてしまうかもしれない。エイミーアダムス主演のSF映画「メッセージ(原題:Arrival)」と同じ脚本家と聞くと納得ですよね。「メッセージ」も結論がなく想像力に訴える詩的な映画でしたね。

しかし、いろんなモンスター映画、世紀末映画の中で特徴的だし、言葉にできない現代の空気感を鋭く映画いている点で、自分は面白く鑑賞できたと思う。

文芸的であることで、抽象的な表現、見ていて腑に落ちない点、わからなかった点、が随所に見られるこの映画。その謎をざっと挙げると…

この映画の謎

  1. モンスターの正体
  2. なぜ特定の人には害がないのか
  3. 自殺する直前に起こる現象
  4. 鳥以外の動物はいないのか
  5. バードボックス(鳥の箱)とは何なのか
  6. 全体を通し伝えたかったことは何か
コウ・タダシ
コウ

この一つ一つに私なりの解答を綴りたいと思います。

バードボックス 感想文

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モンスターとは何だったのか

いきなり、一番大きなネタバレからいきますが、これを明かさないと全て説明できないからです。
映画「バードボックス」に登場する「あれ」、モンスター、闇、生物兵器、と語られている世紀末の原因そのものとは何なのか。映画では透明で、風が舞い上がり、眩しく、時に天国を連想させる表現で描かれている「それ」は何なのか。映画では最後まではっきりさせていない点は、観る人によってこの映画の評価が分かれるところだ。

バードボックス 感想文

モンスターの正体手がかり

  • 耳さわりのいい声、願望からの声
  • 見る=死
  • 常識的な人間ほど「発症」
  • 世紀末は「美しい」もの
  • 「黒い悪魔」として描かれ信奉される
  • 鳥が騒ぐ
バードボックス 感想文

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モンスターの正体はずばり

上に挙げた手がかりや映画での描き方で導き出される、映画では絵が描かなかったモンスターそのものの正体とはなんなのか。それは一言でこれです…

絶望」「悪夢

  • 見ると自殺にまで追い込んでしまうもの、それは「絶望」。望みがないと悟った時、生きていることは「悪夢」
  • モンスターが訪れる時、鳥が騒ぐのは朝が近いからで、目を塞いだサバイバルは睡眠そのもの、つまり映画は「悪夢」を描いてようにも見える

全てが可視化され高度に情報化されたネット社会の現代、人間の負の側面も隠すことなく暴きだされるだけで、正義が存在意義を失っている感覚ってありませんか?出所怪しい情報に惑わされ辞書、聖書にものっていない生き残りが始まっているとしたら、人間は何を信じ「希望の地」へ向かえばいいのか。劇中、2人の子供はただサバイバルできるよう教育され、母親の言うことだけを聞くソルジャーのように躾けられている様子がうかがえる。まるで野生動物のように生きる恐ろしさ。

バードボックス

現代に「生き延びる」とは何でしょう

原作は読んでいませんが、とても憂鬱になるテーマだと感じました。
ネットが隅々まで浸透し、全てが繋がった現代、いいこと悪いことすべてが可視化され目に見えてしまうこんにち、かつて道しるべとされていた宗教や聖書は見る影もなく、法の支配を目指すも腐敗や汚職が進む資本主義や共産主義といった社会倫理はもちろん、「正義」というモラルさえ揺らいでいることは、世界のニュースを見れば明らかだ。私たちは何を選択し何をてがかりに善悪を判断すればいのか、彷徨い模索している世界。混沌。

可視化時代のサバイバル

そうなると人は安易に本能や願望とおりに判断しがちで、性悪説を選び本能通りに生きゆく先は、戦争と絶望しかない。そんな歴史の教訓を生かすために生まれた秩序や法や宗教をたよらず、生き抜くために必要なのは「絶望」を退けること。心の願望を冷静に聞き、全可視化デフォルトになった世界では、開拓時代とは逆に自ら「見る自由」に制限をつけるのも、現代のサバイバル手段として有効だ。そんな可視化時代のサバイバル劇を見ているようで面白い。

可視化の末に到来したオフライン武装

見えているものが正しく、普遍的で、真実ではない。特にこれは、陰謀論飛び交うネット時代に誰にでも経験のある教訓だろう。最近の統計で、デマは真実より拡散する速度が速いというニュースがあった。真実はどこかにある。だがたどり着けないし、たどり着いたとしても真実と証明できるものがない以上、一つ一つ真実を積み重ねた自分を信じ人々は、自分を拠り所に生きて行く時代がより鮮明になった気がする。

映画の終盤、主人公たちが行き着いたオアシスは、世界と遮断されたオフライン的な建物でした。人間の生活習慣からほど遠い日の当たらない生活ですが、絶望を退けることを選んだ人類は日陰でも希望を持てるという暗示のような気がします。

その他の謎

バードボックスと青い鳥

スピルバーグの「未知との遭遇」でも鳥かごを有害物質の感知器として使うシーンがあったけど、メーテルリンク「青い鳥」との共通点を感じるのは自分だけでしょうかね?下記のような共通点を感じました。

  • バードボックスの青い鳥
  • サンドラブロックの青いコート
  • チルチルミチルを思わせる、幼い兄弟
  • 「青い鳥」にもある、死後の世界との会話シーン
  • 絶望の末、行き着いた場

青い鳥」の原作者であるモーリス・メーテルリンクは、児童小説の印象が強いが、下記のような死後の世界についての書物も出していてとても興味深い。

この記事を書いた人

mojigumi

「もじぐみ」の代表、コウです。
専門は企画・出版・編集・印刷、Webデザインと管理。最近はブログ、動画、3DCG、AR、LINEスタンプ等のコンテンツ配信にも力をいれ、自分自身もランニングアートでコンテンツ化に努めています。